押印がないと契約は無効?成立には必要ありません。押すのは証明のためです
押印がないと契約は無効だと思われがちですが、政府のQ&Aは、書面への押印は特段の定めがある場合を除いて必要な要件ではないとしています。それでも押すのは、あとで争いになったときに効いてくるからです。
契約書のどこに、どの印を、いくつ押せばよいのか分からない、といったことはありませんでしょうか。流山市・柏市・松戸市の事例をもとに整理します。
契約書の押印の結論
- 契約は当事者の意思が合えば成立し、押印は成立の要件ではありません
- 押印が効くのは、その書面が本物だと推定される場面です
- 収入印紙の消印だけは、やり方が決められています
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押印は契約の成立に必要な要件ではありません
内閣府と法務省と経済産業省が出している押印についてのQ&Aは、こう書いています。私法上、契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
つまり、押印がないから契約が無効になる、ということは原則としてありません。口頭でも契約は成立します。
ただし特段の定めがある場合を除きという留保が付いています。建設工事の請負契約のように、法律で書面の作成が義務づけられているものは別です。自社の取引がここに入るかどうかは、先に確かめてください。
では、なぜ多くの会社が押しているのか。理由は次の見出しにあります。
押印が効くのは、本物だと推定される場面です
押印の意味は、裁判になったときに出てきます。民事訴訟法は、私文書は、本人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定するとしています。
もう少し平たく言うと、こういうことです。相手が「そんな契約書は知らない」と言い出したとき、本人の印が押してあれば、その書面は本人が作ったものだと扱ってもらいやすくなります。
さらに、印影がその人の印章によるものだと確かめられれば、本人の意思で押されたと推定され、そこから書面そのものの成立が推定される、という流れになります。
ここで大事なのは、あくまで推定であって、覆せるものだということです。押してあるから絶対に安心、という話ではありません。逆に、押していないからといって、やりとりの記録が残っていれば証明できないわけでもありません。
契印と割印は、目的が違います
よく混ざるのがこの2つです。名前が似ていますが、役割が別です。
契印は、1つの契約書が複数ページにわたるときに押します。ページとページの間にまたがるように押して、途中のページが差し替えられていないことを示します。
製本テープで袋とじにすれば、テープと表紙にまたがる位置の1か所で足ります。ページ数が多い契約書ほど、袋とじにしたほうが手間が減ります。
割印は、2通以上の別々の文書のあいだに押します。甲乙が1通ずつ持つとき、2通を少しずらして重ね、両方にまたがるように押す形です。あとで並べたときに、同じときに作られた組だと分かります。
この2つは、法律で押すことが義務づけられているものではありません。差し替えや取り違えを防ぐための実務の工夫です。ただ、押していないと、争いになったときに説明が一段増えます。
| 印の種類 | 押す場所 | 示していること |
|---|---|---|
| 契印 | ページの見開き、または製本テープと表紙 | 1つの契約書としてつながっていること |
| 割印 | 2通をずらして重ねた上 | 2通が同じ内容の組であること |
| 消印 | 文書と印紙の彩紋にかけて | 収入印紙を使ったこと(方法が決められています) |
| 訂正印 | 直した箇所 | 誰が直したか |
| 捨印 | 余白 | あとで直してよいという意思。安易に押さないでください |
消印だけは、やり方が決められています
契印と割印が実務の工夫なのに対して、消印は違います。国税庁が方法を示しています。
押す人は、文書の作成者又は代理人、使用人その他の従業者です。作成者本人に限られていません。社内の担当者が押しても構いません。
押し方は、その文書と印紙の彩紋とにかけて判明に印紙を消さなければならないとされています。彩紋というのは、印紙に印刷されている模様のことです。印紙の内側だけに押しても足りません。
やり方として認められないものも、はっきり書かれています。単に「印」と表示したり斜線を引いたりしてもそれは印章や署名には当たりません。また、鉛筆で署名したもののように簡単に消し去ることができるものも、消印をしたことになりません。
一方で、消印は印章でなくても署名でもよいとされています。印鑑が手元になければ、ボールペンでの署名でも足ります。
2通作って甲乙が押し合う場面では、複数の人が共同して作成した文書に貼り付けた印紙は、その作成者のうち誰か1人の者が消せばよいとされています。両方が押さなければならない、という決まりではありません。
写しにも印紙が要ることがあります
印紙代を抑えたくて、1通だけ作って相手にはコピーを渡す、という形を取ることがあります。ここにも線引きがあります。
国税庁は、写しであっても契約当事者の双方または文書の所持者以外の一方の署名または押印があるもの、あるいは正本などと相違ないこと、または写し、副本、謄本等であることなどの契約当事者の証明のあるものは、課税の対象になるとしています。
逆に、契約書の正本を複写機でコピーしただけのもので、署名もしくは押印または証明のないものは、単なる写しなので対象になりません。所持する文書に自分だけの印鑑を押したものも同じです。
つまり、コピーに相手のはんこをもらった時点で、それは写しではなくなるということです。よかれと思って押してもらうと、印紙が必要になります。
印紙そのものの考え方については、収入印紙の貼り忘れは脱税?契約書の印紙代を電子契約で削減する裏技と注意点もあわせてご覧ください。なお、印紙税の具体的な金額の判断は税理士へ、紛争になったものは弁護士へおつなぎします。
押印をやめるなら、代わりの記録を残します
押印は必要な要件ではないと分かると、やめたくなります。その場合は、本物だと示す手立てを別に用意します。
押印についてのQ&Aは、代わりの方法としてメールの送受信記録の保存、本人確認情報の記録、電子署名や電子認証サービスの利用、PDFにパスワードを設定すること、複数の人を宛先に入れたメールで決裁の跡を残すことなどを挙げています。
大事なのは、押印をやめること自体ではなく、やめたあとに何を残すかを決めることです。ここを決めずに省くと、証明の手立てだけが減ります。
契約書の押印でよくある質問
Q. 契約書に押すのは実印でないとだめですか。
法律で実印が必要とされているのは、一部の手続きに限られます。ただ、印鑑証明書と組み合わせることで、その印がその人のものだと確かめやすくなります。金額の大きい取引や、長く続く契約では実印と印鑑証明書をそろえておくと、あとの説明が楽になります。
Q. 契印を押し忘れました。契約書を作り直すべきですか。
契印は法律で義務づけられたものではありませんので、押し忘れただけで契約が無効になることはありません。ただ、差し替えの疑いが出たときに説明が増えます。相手方と連絡が取れるうちに、両者で押し直しておくのが安全です。
Q. 印紙に斜線を引いておけば消印になりますか。
なりません。国税庁は、単に「印」と表示したり斜線を引いたりしても印章や署名には当たらないとしています。印章でなくても署名で構いませんので、ボールペンで氏名を書いてください。そのとき、文書と印紙の模様にかけて書く必要があります。
契約書の押印の理解度クイズ
Q1. 1つの契約書が複数ページのときに押すのはどれでしょう。
A. 契印
B. 割印
C. 消印
答えを見る
正解:A。袋とじにすれば1か所で足ります。
Q2. 収入印紙の消印として認められるのはどれでしょう。
A. 斜線を引く
B. 鉛筆で署名する
C. ボールペンで署名する
答えを見る
正解:C。簡単に消せるものは認められません。
Q3. 押印についての政府のQ&Aの内容として正しいのはどれでしょう。
A. 押印がないと契約は無効になる
B. 押印は原則として契約の成立の要件ではない
C. すべての契約書に実印が必要
答えを見る
正解:B。特段の定めがある場合は別です。
コピーにはんこをもらってしまった事例
松戸市の事業者の方から、取引先と交わした契約書について確認したいというご相談をいただいたことがあります。印紙代を抑えるため、原本は相手方が持ち、自社はコピーを持つ形にしていました。
ところが、そのコピーに相手方の担当者の印が押されていました。安心のために押してもらったとのことでした。
国税庁の考え方では、所持者以外の一方の署名や押印があるものは課税の対象になります。次回からは、コピーには何も押してもらわない形に変えていただきました。親切のつもりが、負担を増やすことがあります。
契約書を作る前のワンポイントアドバイス
契約書を印刷する前に、ページ数を数えてください。2枚を超えるなら、最初から袋とじにする前提で余白を取っておくと楽です。あとから製本しようとすると、文字が隠れることがあります。
あわせて、誰の印を押すかを先に決めておきます。代表者印なのか、担当部署の印なのか。契約の途中で押す人が変わると、そこだけ印が違うことになります。
捨印は、求められても安易に押さないでください。どこを直してもよいという意思表示になり得ます。直したい箇所が出たら、そのつど連絡を取って訂正印を押すほうが安全です。
契約書の押印のまとめ
- 契約は当事者の意思の合致で成立し、押印は原則として成立の要件ではありません
- 押印が効くのは、その書面が本人の作ったものだと推定される場面です
- 推定なので覆ることがあります。押してあれば絶対、ではありません
- 契印はページのつながり、割印は2通が同じ組であることを示します
- 消印は方法が決められています。斜線や鉛筆は認められません
- コピーに相手の押印や証明があると、写しでも課税の対象になります
つまずくのは、押印そのものが契約の効力を決めていると考えてしまう場面です。決めているのは、合意の中身のほうです。
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